BtoB ECとは、企業間Eコマースのことで、起業・法人間の取引の電子商取引(EC)を表します。ここではBtoB ECとは何かをわかりやすく解説し、BtoB ECのやり方や、導入のメリットなどについても詳しく説明します。
BtoB ECとは
「BtoB」とは「Business to Business(企業間取引)」を略した表現で、法人と法人の間の取引を指します。もうひとつの表記に「B2B」があります。
「EC」は「Electronic Commerce(電子商取引)」の頭文字で、インターネットで商品やサービスを売買することです。「ECサイト」は、ECを展開するウェブサイトです。
この2つの言葉を合わせた「BtoB EC」は、ECサイトやインターネット上のシステムを通して行われる企業間の取引を意味します。ECが最初に盛り上がりを見せたのは企業と一般の消費者が取引をするBtoC(Business to Customer)でしたが、最近ではBtoB ECに注力し、省人化や業務効率化、販路拡大を図る企業が多数登場しています。
BtoB ECの種類
BtoB ECには主に「BtoB ECサイト」と「EDI」があります。これらの形態の違いについて見ていきましょう。
BtoB ECサイト
BtoB ECサイトは、法人向けの製品をウェブサイト上で不特定多数に向けて販売する仕組みです。法人がウェブサイト上で商品・サービスの閲覧から注文までを完結できるシステムは、閉鎖的だった企業間取引に大きな風穴を開けました。
BtoB ECのパイオニアとしては、1990年代にウェブサイトで文具等のオフィスサプライを販売したアスクルが挙げられます。
EDI
EDIは「electronic data interchange(電子データ交換)」の頭文字です。主に大企業同士が、合意されたルールやフォーマットに沿って受発注や請求のデータを処理する取引形態を指します。原型は1980年代に遡り、大型取引において業務効率化を図れるという点で優れています。
しかし利用企業ごとにUIの仕様が異なっていたり、取引先の通信システムとの互換性が求められることから、BtoB ECサイトと比較して柔軟性の面で劣るという欠点があります。
また、2024年にISDNのデジタル通信モードが終了するため、インターネット回線を使用したWebEDIなどへの切替が急務となっています。
BtoB ECとBtoC ECの違い
先に述べた通り、BtoB ECの顧客は法人で、BtoC ECの顧客が一般消費者という違いがあります。その他にも、BtoB ECには法人取引の商慣習がそのまま持ち込まれているという点で、BtoC ECとは大きく異なります。主な違いは以下の通りです。
取引の規模
BtoB ECは取引先が法人であることから、1回の取引量や取引額がBtoC ECよりも大規模になる傾向があります。例えば個人が1着から服を購入できるBtoC ECサイトと、洋服の大量生産用の生地を購入できるBtoB ECでは、取引の規模は大きく異なるでしょう。
掛率管理
企業間取引では、取引先ごとに販売品の価格設定の交渉を行うのが通例です。つまり同じ商品でも取引先によって価格が異なる場合があります。BtoB ECもその例にもれず、サイトに表示される価格を取引先によって変える必要があります。
このニーズに応え、ひとつの商品を複数の価格で管理できる、BtoBの商習慣を前提としたBtoB専用のサイト構築パッケージも存在します。
購入プロセス
BtoC ECでは、消費者が何かを「購入しよう」と決めた時点で注文・決済が完了します。対してBtoB ECは、売り手企業が顧客企業に見積もりを出し、顧客企業が検討した上で購入を決定することで注文に至ります。そのためBtoB ECにはBtoC ECのスピード感はありません。
販路
BtoC ECサイトに掲載されている商品は、基本的にすべての人が閲覧でき、購入できます。一方BtoB ECは、取引先によって販売する商品が異なったり、特定の取引先向けの商品を生産している場合があります。BtoB ECは販路パターンが多様なのです。
決済プロセス
BtoC ECでは基本的に、商品を受け取る前にクレジットカードや銀行振込などで事前に支払いを済ませます。しかしBtoB ECでは、納品済みの商品やサービスの支払いを翌月にまとめて請求する「掛売」が一般的です。ただし掛売は取引量や額、与信状況によって可否があります。掛売をしない場合は、BtoB ECサイトにおいても別の決済方法を用意する必要があります。
BtoB ECの市場規模
経済産業省による「令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」では、EDIを含めた日本におけるBtoB ECの2022年の市場規模は420.2兆円と、前年の372.7兆円から12.8%増、業種別のEC化率は前年から1.9ポイント増の37.5%と、いずれも堅調な伸びを見せています。
また、業種別内訳からは「製造業」や「卸売業」で特にEC化率が高いことが読み取れます。反対に「建設業」や「サービス業」、「運輸業」ではEC化率が低くなっています。
BtoB ECの導入メリット2>
BtoB ECの導入は、売り手企業にとって様々なメリットがあります。また、それが買い手企業のメリットに直接繋がるものもあります。具体的な例を見ていきましょう。
新規顧客の開拓
これまでは売り手企業は、営業をかける際にまずアポイントをとり、実際に足を運んで対面で売り込み・交渉をする必要がありました。この営業方法では、時間や人的リソースの問題から新規顧客の開拓には限界がありました。
しかしECサイトなら、クローズド型(後ほど説明)でない限り、インターネット環境があれば全世界の潜在顧客が商品を閲覧できます。これにより、時間や人的リソースを割くことなく新規顧客の開拓が期待できます。
受注機会の拡大
従来の電話やメールを使った発注方法では、営業時間中でないと受付完了まで辿り着かないという問題がありました。一方、BtoB ECシステム上で在庫管理を行っていれば、買い手企業は日時を問わず発注をかけ、受付が完了したことを確認できます。
これにより、海外の企業や在外支店からの発注もスムーズに受け付けることができ、受注機会の拡大に繋がる可能性があります。
受発注プロセスの効率化
従来の受注対応では、手動での受注情報の入力による時間コストがかかったり、電話での聞き間違いによる誤発注などが発生することもあります。
BtoB ECシステムでは、これらをすべてデジタル化し業務の効率化を図れるため、売り手企業と買い手企業双方にとってメリットがあると言えます。
人件費削減
これまで人間が行ってきた問い合わせ対応も、BtoB ECシステム上に在庫数や納期の目安を確認できる機能や、商品を選ぶだけで自動的に見積が出る機能を設定すれば、実際に人間が稼働する時間を減らすことができます。
また、ECサイトにAIによるチャットでの問い合わせ対応などを導入することでも、人件費の削減を図れます。
BtoB ECの導入のデメリット
BtoB ECには多数のメリットがある一方、知っておきたいデメリットもあります。
導入コストが必要
BtoB ECシステムの立ち上げには、数百万円以上の初期費用がかかるケースがあります。BtoB、または業界独特の商慣習に合わせてシステムをカスタマイズする必要があるため、BtoC ECサイトの構築よりも高額になりがちです。
既存顧客との調整が必要
アナログでの発注方法に慣れ親しんでいる既存顧客が、ECサイトでの発注に拒否感を示すことも考えられます。特に顧客側で業務プロセスに大きな変更が生じる場合、その手間を嫌って取引中止になってしまう可能性もゼロではありません。
既存顧客の負担を軽減し、スムーズにECサイトでの発注に移行してもらうために、使用マニュアルを作成したり、操作説明の機会を設けるなどのフォローアップが必要です。
BtoB ECサイトの種類
BtoB ECサイトには「クローズド型BtoB ECサイト」と「スモール型BtoB ECサイト」の2種類があります。それぞれの違いについて見ていきましょう。
クローズド型
クローズド(Closed)という名前の通り、クローズド型BtoB ECサイトはすでに契約が存在する取引先のみが閲覧・使用できるECサイトです。決済は掛売で、取引先ごとに異なる売価を表示させることもあります。クローズ型BtoB ECサイトの運営は、受注処理の業務効率化が主な目的となります。
スモール型
スモール型BtoB ECサイトは遠方の取引先や小口取引の顧客へのアピール、新規顧客開拓を目的としています。決済は掛売ではなく注文ごとに行われ、買い手企業によるサービスや価格の違いは発生しません。
半クローズド型
「半クローズド型BtoB ECサイト」は、取引先でなくても、サイト上で会員登録をして承認されれば商品の閲覧・購入ができる仕組みのBtoB ECサイトです。
BtoB ECサイトの構築方法
BtoB ECサイトには主に5種類の構築方法があり、使用感やコストなどが異なります。それぞれ説明していきます。
ASP型
ASPは「Application Service Provider(アプリケーション・サービス・プロバイダー)」の頭文字で、クラウド上で必要なソフトウェア環境を提供してくれます。各サービス会社が提供するカートシステムをレンタルしてECサイトを構築します。一般的にホームページ機能など基本的なECの機能も付随しているサービスのため、初期費用を抑え、短期間でECサイトを構築できます。
デメリットとしては、カスタマイズ性が低く特殊な取引やUI上のニーズには対応が難しいことが挙げられます。
オープンソース型
一般公開されているソースコード(オープンソース)を使用してECサイトを構築する方法です。ASP型よりもカスタマイズ性に優れていますが、サイトの規模が大きい場合は時間とコストがかさむおそれがあります。
パッケージ型
ソフトベンダーが開発した基本機能を備えたパッケージシステムを購入し、自社のニーズに合わせてカスタマイズする方法です。優れたカスタマイズ性を確保しながらも、ゼロからすべてを構築する必要がないというメリットがあります。
ただし、パッケージの導入費用やサーバーのインフラ費用、また程度によってはカスタマイズ費用が高額になる可能性があります。
フルスクラッチ型
ゼロから自社オリジナルのECサイトを構築する方法です。デザインをはじめ、自社製品や取引フローに合わせてすべてイメージ通りに作成したい場合に採用されます。
デメリットは、開発に時間がかかること、初期費用が他の方法よりも大幅に高額になることです。また、開発の委託先との足並みをしっかり揃えないと、希望通りのサイトに仕上がらない恐れがあります。さらに、構築後もメンテナンスやリニューアルの度にコストがかさみます。
クラウド型
ASP型と同様にクラウド上でECの構築・運用を行う方法ですが、フルカスタマイズが可能で、外部システムとの連携が容易というメリットがあります。
クラウド型BtoB ECサイトに当たるShopify Plusでは、顧客が独自の購入フローや決済方法を設定できたり、取引先によって異なる価格を設定できるなどの、BtoB ECサイトに欠かせないカスタマイズ機能をデフォルトで提供しています。